大山崎春茶会「春風得意」
2007年4月21日(土)、22日(日)

春風得意
(春風に意を得る)

花簇簇(はなぞくぞく)
錦簇簇(にしきぞくぞく)
春風に吹かれて
ありとあらゆる花
森羅万象がひらきはじめる。
色とりどりに、いっせいに。

春風に意を得て
早馬を走らせば
一日で看尽くすことすらできようか。
この長安の都の花をすべて。

監修:中国茶会 黄安希
茶藝:宮桂子、佐野陽子、西村沢子、大塚美雪、古澤江美、松岡典子、吉田くるみ、上田雅子、横山由理、川本敦子、中村里子、丸山紗加、横山由里、藤田昌子、道田あずさ 川西万里、樺嶋佳子、野口恵未、原未来子、栗川智香、工藤和美、松本昇子、黄研、黄安希
於:アサヒビール大山崎山荘美術館
文責:黄安希

春風露華席(茶室 彩月庵にて)
四月二十一日 二十二日共
碧緑剣(江西省産)

緑茶はさまざまな名前が付けられるのですが、「緑」「碧」「翠」などは緑色の鮮やかさをうたったもので「剣」「珠」「雀舌」「毛峰」「毛尖」「眉」などは茶葉の形状をあらわしたものなのです。
この「碧緑剣」というお茶は、「みどりあざやかな剣」というような意で、剣のように尖った一番摘みの茶芽のみを丹念に集めて作られたものですが、その味はというと、色味はほとんどなく、味はあくまで淡く、茶としての強い旨みはほとんど感じることはありません。綺麗な水にごくわずかに甘みと苦味が落ちているような風味。「透明(透き通っている)」、「玲瓏(りんとしている)」とでも形容するような味わいで「こんなお茶の味もあるのか」とおもわれるようなはかないものです。この茶は別名「玄宗皇帝の剣」と呼ばれています。唐代の皇帝であった玄宗皇帝は、絶世の美女と詩にもうたわれた楊貴妃と十年余りにも及ぶ蜜月をすごしました。

雲想衣装花想容(雲には衣装を想い、花にはかんばせを想う)
春風拂檻露華濃(春風拂を払って露花濃やかなり)
唐代 李白の詩「清平調」より

空にひろがるやわらかな雲、それは楊貴妃の衣装のうつくしさ
咲き誇る牡丹の花 それは楊貴妃のかおのあでやかさ
こよい春風は沈香亭の欄檻を吹きすぎ、花と夜露は月光をうけきらきらと輝く

後に、安禄山氏の率いたクーデターにより、玄宗皇帝は長安の都(今の陜西省西安)より陥落し、蜀(今の四川省)の国へ落ち延びました。その道中で貴妃を生かしておくことができぬと家臣にせまられ、玄宗皇帝は自らの剣で貴妃の首をはね、死を賜ったのです。花が咲き万物が饗宴するかのようなこの世の春。その裏側にひそむくらやみと死の匂い。春のうつくしさには、陰影もまた存在します。それがため、なおさら、春はうつくしく思えるのかもしれません。

茶馬古道席(茶室 トチノ木亭にて)
四月二十一日
岩塩入り磚茶 西蔵(チベット)風味(雲南省西双版納産)

茶馬古道とは、世界最古のお茶の道です。
茶の発祥地である雲南省西双版納より、四方につながる5つのルートがあり、北京ルートやミャンマールート、チベットルートなどが作られ、今もその後がのこされています。さかのぼること数千年前、お茶はすべて固められた状態で作られていました。茶葉を圧縮することで、かさが低くなり、表面積が小さくなり、重ねやすく持ち運びしやすくなります。お茶ははるばる遠隔地まで山々の峰を縫うように、馬の背に乗せられ陸路を運搬されてゆき、貴重品として貯蔵されたのです。
このような昔の姿を今に伝えるお茶が、プーアールといわれるお茶で、雲南省のプーアールという町が、茶馬古道の出発地点であったことから、ここから運ばれるお茶をプーアール茶と呼ぶようになったのです。
こうして運ばれたお茶は、さまざまな形をしており、レンガのように四角いものもあれば、丸い円盤状のものもあり、きのこのような形のものもあります。
チベットなど、標高が高く岩塩がとれる地域などでは、料理の味付けもほとんど塩味のみですが、なんとお茶にも塩をいれてのみます。この地方の人々にとっては、お茶は嗜好品というだけでなく、生存に不可欠な糧であり、野菜の作れない高山地帯での貴重なビタミン源の役割を果たします。塩をいれると、プーアール茶特有の癖が、不思議にかどがとれたようになり、日本の焙じ茶を思わせるような親しみやすい味になります。

四月二十二日
雲南七子餅茶 陳蔵十年(雲南省西双版納産)

プーアール茶は、他のお茶と違い新茶の時期よりも、時間がたって熟成したものがおいしくなるといわれる不思議なお茶です。緑茶をベースにして、製造する茶廟(茶工場)に存在している独自の常在菌をお茶に付着させ、後発酵、熟成をするお茶なので、出来立てのものは菌の働きが活発なため、特有の癖がつよく感じられます。しかし、後発酵の菌の働きが弱まるころになれば、香りの変化が訪れてマイルドになり、味や喉越しもまろやかになり、よいものは甘さのないカカオのよう。色は黄褐色から栗の表皮のような艶のあるうつくしい濃い茶色に変化します。おおよそ生茶の状態で七年くらいが熟成の目安ですが、古いものでは百年以上経過したものもあるそうです。とりわけプーアール茶を好むのは、香港の海千山千で成功した富豪の男達。大金が動き、何十年もの老成したプーアール茶が取引されるのです。

茶大小席(蓮池横の前庭にて)
四月二十一日
明前黄金桂(福建省安渓産)
四月二十二日 
明前本山鉄観音(福建省安渓産)

一から六までのだんだんと大きくなる茶壷六個。一は一杯、六は六杯のお茶を淹れることができ、この茶壷の形を水平壷といいます。お客様にさいころを振っていただき、当たった目の数の大きさの茶壷でお淹れ致します。
お茶は、福建省の青茶を日替わりで。青茶は普通、五月になってから充分に生育した茶葉を摘むのがならいです。清明節である四月五日前に採集したお茶は「明前」とよばれますが、半発酵茶である青茶の明前摘みは、極めて極めて珍しく、この時期の黄金色に輝く小さな新芽は希少です。味や香りは淡く、清新で青みが勝ち、幼くもあぶなっかしい魅力があります。

一椀喉吻潤(一椀飲むとのどと唇を潤す)
両椀破孤悶(二椀飲むと孤独を忘れる)
三椀捜枯腸 唯有文字五千巻 (三椀飲むとおなかの中に五千巻もの文学がつまる)
四椀發軽汗 平生不平事尽向毛孔散 (四椀飲むと軽く汗が出て、日頃の不満が毛穴から外に出てしまう)
五椀肌骨清(五椀飲むと肌と骨が清くなる)
六椀通仙霊(六椀飲むと仙人になったような気分になる)
七椀喫不得也 吻覚両腋習習清風生 蓬莱山在何処(七椀飲むともう何もいらない。両脇がそよそよとすがすがしくなり羽が生え、仙人となって蓬莱山に飛びゆこう。)
唐代 盧全の詩「走筆謝孟諫議新茶」より

さあ、縁起をかつぎ、いざ勝負。しょうぶ、と同じ発音の菖蒲の花のいかだの前でさいころを振ってみましょう。さて、何杯飲むことができますでしょうか。

珠玉席(蓮池近くの前庭にて)
珍珠茶(浙江省産) 四月二十一日
龍珠茶(福建省産) 四月二十二日

緑茶の淹れかたにはいろいろな方法がありますが、その中のひとつは「上投法」というものです。
まず茶杯に湯をいれて、上から茶葉を落とす淹れかたですが、こうすると、茶葉を先においてその上から直接湯を注ぐ淹れかたに比べ、茶葉がいたみにくいため、出来たばかりの繊細な新茶に適しており、茶産地の人々が、できたてのお茶を飲むのに最も普及している飲み方でもあるのです。
こちらの席のお茶は、珠玉のように丸い形をしており、摘み取ったばかりの幼葉を手作業で真珠のようにかたちづくります。
茶杯に湯をいれ、ころころ、と数粒の珠玉をこぼしましょう。まもなくわらびやぜんまいのような、じゅんさいのような不思議な姿をあらわしながら、湯の中で茶葉自体が動きはじめます。茶葉がほどけてしまえば、すっかり味が出て飲み頃です。

龍井末茶席 (大木前の木陰にて)
四月二十一日 二十二日共
龍井茶は中国緑茶の中で最も有名なお茶のひとつであり、四月初めの龍井茶の中には高価な値がつき、一斤(500グラム)で十万円以上になるものもあります。しかしこの時期は同時に茶市場で、掘り出しものが出回るときでもあるのです。それはこの龍井茶の葉をより分けたあとの細かくなった茶葉をつめたもので、「末茶」とよばれ、市場の店頭にスペシャルプライスでおかれた大袋を、地元の人々が競うようにして買っていきます。細かい分だけ味が濃く、また惜しみなくどんどん飲めることからも、人気なのです。大きなガラスの茶碗で入れた龍井末茶。ひしゃくですくってうわずみを飲みます。どうぞご自由にお召し上がりください。

樹下独酌席(大木前の木陰にて)
明前大佛龍井(浙江省産) 四月二十一日 二十二日共
冬を越えていっせいに芽吹くお茶の新芽を、丹念に手摘みして作られた緑の新茶を飲むのは、あまたのいのちそのものを体にとりこむようなもの。
この時期は花咲き新緑が冴え、屋外が心地好い季節。新茶は野点が似合います。新緑をめでつつ、野点の独酌(自分で淹れて楽しむこと)をいたしましょう。大佛龍井は、いり豆のような香ばしい香りに甘い風味、かわいい茶葉の形が楽しめるお茶なのです。
白磁の蓋碗と蓮華を用いた入れ方でいれてみましょう。 お一人さま一回独酌することができます。

1.白磁の蓋碗を開き茶葉の入った緑の紙包みの茶を中にすべていれます。
2.お湯をゆっくりと上まで注ぎ、蓋をして蒸らします。
3.蓋を開けると、黄粉のような香ばしい香りがいっぱいあふれます。
4.蓋を開け蓮華を使ってお茶をすくいとり自分のお茶椀に移してお飲みください。蓋の裏、蓮華の裏にも、豆や甘い飴のようなお茶のよい香りがつきます。香りを楽しみながらお召し上がりください。
5.茶葉が口に入ってもお気になさらず。この時期の茶葉はやわらかいのです。(蓮華、蓋碗には直接口をつけないでくださいね。)
6.楽しんで飲み終われば、茶通しを使って蓋碗の中の茶葉を捨て、お湯を通して中を綺麗にあらって清めてください。蓮華も蓋碗の中ですすぎます。
7.元の通りに茶道具を並べ、次の方へ。 みなさまそれぞれが譲り合い、粋な独酌をこころがけてくださいね。

闘茶会(蓮池前の前庭にて)
四月二十一日 午後一時より、春秋闘茶会(春摘みと秋摘みの茶 テイスティングゲーム)をおこないます。(定員22名)

四月二十二日 午後一時より、中台闘茶会(中国大陸と台湾の茶 テイスティングゲーム)をおこないます。(定員22名)

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