大山崎秋茶会「桂花露香」
2006年10月28日(土)、29日(日)

秋風淅淅
秋水冷冷 (出典 虚堂偈より)
桂花露香 (出典 槐安国語より)

秋風が淅淅(そよそよ)と吹くようになり、
川にはつめたい水が流れはじめた。
香りたかい木犀の花が咲き、
そこに宿る露までも、よい香りがする。

監修:中国茶会 黄安希
茶藝:栗川智香、原未来子、道田あずさ、宮桂子、川西万里、佐野陽子、横山ゆり、藤田昌子、西村沢子、曽根綾江、小倉康代、大内真奈美、竹内やすこ、中村智子、工藤和美、松本昇子、堀口一子、野口恵未、黄研、黄安希
於:アサヒビール大山崎山荘美術館
文責:黄安希

花湯 柚子茶席(庭にて)
秋が深まってくると、柑橘の季節です。柚子の皮は緑色から黄色にかわりはじめ、爽やかな芳香がうれしいものですね。この柚子の皮の一片をお湯に浮かせていただきましょう。このように果実や花にお湯をさして飲むことを、中国では「花湯」という風に総称しますが、お茶会の最初の一服として、あるいは去り際に、または、数種類のお茶とお茶との合間に口中を洗いきよめるような意味合いでいただくのがふさわしく、その季節を象徴するような素材を用いるのがならいです。花湯の歴史は長く、茶がひろまるより前から飲まれていたとされ、毒がなくてよい香りのするものであれば湯にいれることができ、四季折々の花のさかりであれば、桃花、茉莉花、蓮、橘花、蘭、菊、木犀など、時期のものを用いること興ひとしおであり、また花のない寒い時期には、陳皮(乾燥したみかんの表皮)や生姜、銀杏などを用いて湯をさすと、こころも体もあたためてくれる飲み物となります。古くは、口中に潤いがほしいときや、のどの渇きをいやすときにとりあえず、と、飲まれるもので、いにしえの中国の詩人達は、詩作をするときに飲んだということです。美しい韻を踏んだ漢詩を繰り返し繰り返し音読して、詩の響きをたしかめながら創作するとき、そのかたわらに季節の花湯がおかれていたのでしょう。

花湯 柚子

点心 八宝粥席 (庭にて)
八宝粥というのは豆を炊き出したお粥で、その名の通りに八種類以上の豆や穀物を主役に炊くお粥のこと。自然の甘みがほんのりとしたお粥で、本来は十二月八日の釈迦成道の日(お釈迦様が悟りをひらかれた日)に、中国の寺院で雑穀粥の炊き出しを行い、信徒にふるまったことからはじまったとか。
色も形もさまざまな豆類を、大山崎のつめたくあまい水に一日つけておくと、ふっくらとして姿が大きくなり、まるで清流の小石を拾ったようです。その水に香り高い金木犀の花をうかべて、秋の山泉の落花の風情で炊くことといたしましょう。湯気をたっぷりとあげながらの点心の炊き出し。豊穣な実り、来るべき冬の予感。手の中のぬくもりがたのしみなものですね。

大山崎八宝粥 
蓮の実 落花生 緑豆 小豆 甘粟 黒米 栗 鶉豆 白隠元豆 紅棗 広東省産桂花(金木犀)

秋書席(庭にて)
大山崎の敷地内にはさまざまな樹木が植えられています。モクレン、銀杏、桜、楓など他にもさまざま。それらの落ち葉をあつめた籠は、秋の吹き寄せのごとく。
落ち葉に秋の言葉を記していただき、その間にお茶を一服お淹れ致しましょう。

白豪鳥龍茶 枯れ葉のようにからっと乾き、産毛まじりの軽くよじれた小さな茶葉。秋の残照のようなオレンジ色と葡萄の甘い香り。。
水仙王 年輪を重ねた風格を持つ古木に咲いた、凛とした花の香り。烏龍茶の中においても、誇り高い長老のような味わい。。
名叢 しっかりとした飲み口と軽い輪郭をもつ味行き。香木のような飛翔する香り。

茶(二十八日 二十九日でお茶の種類が変わります)
白豪烏龍茶(台湾)
水仙王(広東省)
など。その他、興趣にて、とりどりのお茶をお淹れ致します。 

残花席(美術館蓮池前バルコニーにて)
荷盡巳無敬雨蓋 蓮は尽きて、すでに雨をささぐるの蓋なく
菊殘猶有傲霜枝 菊はそこなわれて、なお、霜におごるの枝あり。(蘇軾の詩より)  蓮池も、「枯れ蓮」の景色となるころ、秋菊の葉は霜にうたれ紅葉に変わり、それもまた、美しいものです。花少なとなる晩秋のこの時期、手の中にひとときの花を咲かせましょう。
(両日、十三時から 先着30名さま限定にさせていただきます。)

茶 花言茶語 紅塔 仙桃 金仏塔など。工藝花茶さまざま

千秋萬歳 重陽席(茶室彩月庵にて)
今年は十月三十一日が、旧暦の九月九日にあたるそうです。
九月九日は、「重陽の節句」と呼ばれます。奇数のことを陽数といいますが、奇数の最大数である九が重なることから、そのように呼ばれるのです。
この時期は菊の花が香ることから「菊の節句」ともよびならわされ、見晴らしのよい高いところに登り、菊の花を浮かべたお酒をいただくと、延命長寿が得られるとされており、古来より、文人達は景色のよい場所で集って、越し方行く末などを詩に詠み、菊の宴をはったそうです。小高い茶室にて、菊の花を浮かべたお茶をいただき、すがすがしい秋の涼気とともに、長生きの恩恵を蒙ることにいたしましょうか。

茶 雀舌と貢菊
今年、大山崎春茶会においても、ここ彩月庵で、黄山雀舌を天目大茶碗でお淹れしました。一番摘みであるこのお茶は、春先は、あまい豆のような香りがし、黄色い産毛のある幼い風味のお茶ですが、秋になると、老成し、日向ぼっこをしている秋草をおもわせるような軽さとひなびた味わいが出てきて、みずみずしいむら春の頃に飲むのとは違う、枯さびた味が出てきます。味ゆきの変化に、春秋の邂逅をみるようです。
「雀舌と貢菊」。このふたつのお茶は、古典的な組み合わせですが、移ろいつつある緑茶に繊細な白い菊がそっと寄り添うさまが、なにか物語りのひとつを思わせるようでもあります。鳥の飛び立った後のような、しん、と静謐な茶です。

秋摘茶席 (茶室トチノ木亭)
秋摘みの新茶が到来致しました。福建省の安渓は、鉄観音というお茶の名産地。春茶、夏茶、秋茶、冬茶の年4回の茶摘ができます。しかし、お茶好きの人々が楽しみにしているのは、春茶と秋茶のようです。春茶は季節の若さを一身に浴びたような清新な風味がしますが、秋茶は成熟とこく、まろやかさが深まり、香りの中に「乳香」という特別の香りがでてきます。このように、季節違いのお茶の中に、味の対比をみつけたりすることができるのが、年に数回収穫のあるお茶のよいところ。
今年の秋茶は十月十八日に届きました。
さて、今年はどんな塩梅でしょうか。

茶 安渓南岩鉄観音

樹下独酌席(大木前大テーブルにて)
一説によると、お茶を楽しむのに、究極の人数、そしてお相手は?誰と楽しむのがよいでしょうか?
答えは「自分自身。」最高のお茶の楽しみは「一人」だそうですよ。この席はお手前するものはいません。自分自身のために、あなたがお茶を淹れてみましょうか。おのおのが同じお茶をそれぞれ淹れてみても、すべて違った味になるかもしれません。同じテーブルに隣合わせた人と、「茶飲み友達」になれるかもしれません。最後に、粋な独酌は、適度にさっと切り上げ、後を濁さないことが大切。長尻にならないで、次にお待ちの方のために、順番をゆずってくださいね。 

《独酌の仕方》
1.茶壷のおいてある席を選び、座ります。
2.茶壷(急須)の蓋を開けます。
3.茶壷の中に分量の茶葉をいれます。
4.お湯を八分目まで注ぎ、この一煎目のお湯を大壷の中に捨ててしまいます。
5.もういちどお湯を注ぎます。少し蒸らしてから茶杯に注ぎます。
6.どうぞお召し上がりください。
7.楽しんで飲みおわったら、次の方のために茶壷を始末しましょう。茶壷の中の茶葉を茶通でかきだして、
大壷にいれてしまいます。中をさっと洗い、蓋の口は軽くあけておきます。茶巾でお盆を拭いておきましょう。
8.立ち去ります。次のお茶席へどうぞ。

茶 当日のお楽しみ お一人さま一回、独酌することができます。

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